東京高等裁判所 昭和25年(う)3859号 判決
原判決認定の事実は「被告人は法定の除外事由がないのに営利の目的で昭和二四年九月一一日三浦郡南下浦町観音崎より東へ二浬隔てた沖合に於て氏名不詳の漁夫より其の漁獲した許可外生鮮水産物である「あじ」三三一貫七〇〇匁を沖買したものである」というのであり、之に対して原審は被告人は生鮮水産物配給規則第二二条の二に定められた沖買禁止の条項に違反したものと判断したのである。
而して生鮮水産物配給規則所定の沖買の定義には変遷があつたが、当時適用せらるべき沖買いの定義は右規則第二二条の二によれば「陸揚地に搬入される以前に業として買い受けて又は販売の委託をうけて、これを販売し、又は販売の委託をすること」というのであり、法文の表現は必しも万全とはいわれないが、生鮮水産物を陸揚地に搬入以前に業として転売目的で買受けるが如き場合は沖買をしたものと解すべく、之を法文の末に拘泥し業として買受けた上現実に販売しなければ沖買とはいえないと狭義の解釈をすべきものではない。
而して沖買の許可される生鮮水産物は指定されて居り、当時「いわし」は指定されていたが「あじ」は指定されていなかつたから「あじ」は合法の沖買の対象とはならなかつたのである。即ち当時「あじ」を判示海域に於て業として転売の目的で買受ける行為は直に右規則第二二条の二に違反する行為であつたと断ずべきものであり、論旨は業として買受けた上現実に之を販売するのでなければ沖買と称することを得ないと主張するかの如くであるが、右解釈は前記に照らし採ることを得ない。
然るに原判決の認定によれば「あじ」を被告人が沖合で買受けたことを以て直に前記沖買の定義に該当するものの如く判断したものと解せられないでもないので、原判決が果して前記の如く被告人が業として転売目的で沖合で指定生鮮水産物外の「あじ」を買受けたものであるという趣旨で前記認定をしたものであるか否かを検討するに、原判決が証拠として掲げた被告人の原審公判廷に於ける供述によれば、被告人は「いわし」については沖買の許可を受けていたものであるから「いわし」の沖買は平素之を業として行つていたものであると認められる。且被告人の供述によれば「いわしは沖買業者が競争で買うので他の小魚を買わなければいわしを売つてくれないので、本件の如くあじを買つたのであり、其のあじは集荷機関に揚げるつもりであつた」というのであり之を原審証人高瀬博の供述と綜合すれば本件あじの買受けは正に転売を目的とした買受行為であり、而かも平素被告人が業としていた沖買行為の一端として為されたものと認められるのである。然らば原審が前記の如く事実の認定をしたのは此の間の事実関係を簡単に表現し殊に法条に所謂沖買なる文言をそのまま使用したものであつて、其の意とするところは、被告人の判示買受けは転売の目的を以て業として買受けたものであると判示したものと解し得る。故に原判決には理由不備の違法もなければ法律の解釈を誤つた違法もない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)